2013年1月2日公開
パラジウムやニッケルを使ったクロスカップリング反応では,ハロゲン化物の炭素-ハロゲン結合解離エネルギーによって反応性が変化することが知られています.これは,金属が炭素-ハロゲン結合に酸化的付加するために必要なエネルギーが,その結合解離エネルギーに依存する傾向にあるためです.このため,カップリング反応ハロゲン化アリール(ベンゼン,ピリジン,チオフェン)の炭素-ハロゲン結合解離エネルギーを目安に反応性を予測することができます.そこで,ハロゲン化アリール類の結合解離エネルギーをDFT計算によって求め,テーブルにまとめました.
なお,今回の計算で求めた結合解離エネルギーは,0 Kおける式(1)の反応のエネルギー変化です.
Ar–X → Ar• + X• (1)
ZORA-(U)B3P86/TZVPレベルの計算により求めた炭素-ハロゲン結合解離エネルギーを表1にまとめます.なお,ピリジン,チオフェンの置換位置は図1のようになります.
ハロゲン化アリール | 結合解離エネルギー [kcal/mol] |
---|---|
ヨードベンゼン | 67.4 |
ブロモベンゼン | 79.9 |
クロロベンゼン | 91.3 |
2-ヨードピリジン | 62.8 |
3-ヨードピリジン | 67.5 |
4-ヨードピリジン | 66.2 |
2-ブロモピリジン | 75.7 |
3-ブロモピリジン | 79.5 |
4-ブロモピリジン | 78.7 |
2-クロロピリジン | 87.5 |
3-クロロピリジン | 90.8 |
4-クロロピリジン | 90.1 |
2-ヨードチオフェン | 71.1 |
3-ヨードチオフェン | 69.7 |
2-ブロモチオフェン | 82.2 |
3-ブロモチオフェン | 81.3 |
2-クロロチオフェン | 93.0 |
3-クロロチオフェン | 92.2 |
よく知られているように,炭素-ハロゲン結合解離エネルギーはCl > Br > Iの順番に小さくなります.また,ピリジンでは3位 > 4位 > 2位の順に結合解離エネルギーが小さくなります.チオフェンの場合は3位の方が2位よりも結合解離エネルギーが小さくなっており,ピリジンと逆の傾向にあります.
DFT法でエネルギー計算または構造最適化および基準振動解析を行いました.汎関数にはB3P86を用い,基底関数には非縮約のTZVPを用いました.また,相対論効果をZORA/RI法で考慮しました.なお,ラジカルの計算は非制限法で行いました.結合解離エネルギーにはスケーリングなしの零点振動エネルギーを含んでいます.すべての計算はORCA 2.8.0で行いました.
なお汎関数の選択は,J. Phys. Chem. A2003, 107, 9991–9996を参考にしました.